ファイナンシャルプランナー(FP)全体講義動画
相続・事業承継
資格の紅白(通信講座、福岡県通学講座)
全体講義とは
ファイナンシャルプランナーを独学で勉強するとどうしても暗記が増えてしまい結局何が言いたかったのかが分からなくなります。そこでまず全体の概要や何を学びどんなことを考えてほしいのかを勉強するとその後のテキスト等でのインプットがスムーズに勉強できます。
だいたい3級レベルの基礎レベルに合わせて講義していますが、2級独学者にも十分に役に立つ内容です。
動画をみてファイナンシャルプランナー(FP)3級、2級試験に合格しましょう。
相続・事業承継① 争続にしないために
非嫡出子相続分違憲判決に見る相続の考え方
非嫡出子の相続分
民法 第900条
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
例 相続財産6億円を嫡出子と非嫡出子が1人ずついるとき
違憲判決前
嫡出子4億円(相続分2/3)と非嫡出子2億円(相続分1/3)
違憲判決後
嫡出子3億円(相続分1/2)と非嫡出子3億円(相続分1/2)
最高裁判例
相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。
さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。
これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。
⇒要するに社会や国民によって考え方は変わるので、相続などの法律もそれに変更していくということ。
時代の変化
江戸時代の日本の相続制度は家長主義によるもので、相続は全て家長が行うというものであった。
明治時代に入り、文明開化により欧米的な平等主義が法律に明記されるようになったが、人々の考えには家長主義は根強かった。戦後になり高度成長期と過ぎていくにつれ、家長主義の考えは薄れていった。また社会でも家族に形態に多様化が生まれシングルマザーや事実婚なども珍しいことではなくなっている。
争続を起こさないために
このように相続は家長制度と平等主義のあいだにあり、昔からの考え方と時代による考え方の変更、そしてその家や個人が考えるやり方とでは相違がみられる。
また遺産分割では単なる財産の取り合いとしての意味のほかに、日頃からの兄弟姉妹間のうっ憤や相続人の配偶者による後押しなどが問題の根を大きくしている。
そのため相続を争続にしないためには被相続人が日頃からや遺言により自分の意思を明確にするとともに、相続人に対して話し合いの機会を設け全ての者が納得するようにすることが大事である。
被相続人による争続対策
後見制度
認知症などにより判断能力が劣る状態になると、自分の財産を無駄に浪費してしまったり騙されて財産を取られてしまったりする危険性がある。そのため後見制度により制限行為能力者自身で単独で有効な法律行為を禁止し、契約には法定代理人による同意が必要とすることができる。
この制度には判断能力が落ちた後に裁判により法定代理人を選ぶ法定代理制度と、あらかじめ自分の信用のおける者(弁護士など)に財産の管理を頼む任意後見制度がある。
遺言
遺言は被相続人の最後の意思で有り、法定相続に優先する。また遺言は遺産分割の内容だけでなく遺産分割の方法を指定したり生前には言いにくい法律行為(認知や廃除など)を行ったりもできる。
しかし遺言には書き方が決まっているため、もしそれに反した書き方をすると無効になる可能性もある。
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自筆証書遺言 |
公正証書遺言 |
秘密証書遺言 |
方式 |
遺言者が,その全文,日付および氏名を自書し,これに押印して作成 |
遺言者が遺言の趣旨を口述し,公証人がそれを筆記して作成 |
遺言を記載した書面を公証人と証人2人の前に提出して、その遺言書を封筒に封書し、署名、捺印 |
証人 |
不要 |
2人 |
2人 |
検認 |
必要 |
不要 |
必要 |
保管場所 |
自分で |
公証役場 |
自分で |
メリット |
証人の立会の必要がなく,秘密にできる。 特別な費用はかからない。 |
内容が明確で無効となるおそれがないこと,検認の手続は不要なことなど |
自分で書く必要がなく、内容も秘密にできること、費用が公正証書に比べ安く一定 |
法定相続分
遺言がなかったときは法定相続により分割される。
相続分
養子は実子と同じ相続分となる
代襲相続:被相続人の子が,被相続人の相続の開始以前に死亡している場合,その者(被相続人の子)の子が代襲相続人となる
相続分の計算方法
配偶者は必ず相続人になり、順位の高い者と分割する。順位の者がいなかったら次の順位となる。
第1順位 |
配偶者と子の相続分は1:1なので、子の相続分は1/2 |
第2順位 |
配偶者と直系尊属の相続分は1:2なので、直系尊属の相続分は1/3 |
第3順位 |
配偶者と兄弟姉妹の相続分は1:3なので、兄弟姉妹の相続分は1/4 |
⇒子・直系尊属・兄弟姉妹が複数人いるときはその者の間で等分に分割
⇒代襲相続人が複数人いるときはその者の間で等分に分割
生前贈与を行う
被相続人が生きている間ならば、相続人も好き勝手なことは言えず自由に遺産を分割することができる。
遺留分の放棄
遺言により相続財産を特定の者に全財産を送るということは、遺留分(相続人が相続財産の一部を取り返す)によりできない事がある。そのため生前贈与を行う代わりに遺留分を放棄させることにより、遺言を確実に実行することができる。
負担付贈与
単なる贈与などで財産を譲渡すると、以後の介護などを行わない危険性がある。そのため負担付贈与をすることにより、もし受贈者(相続人)が負担(介護など)をしないときは贈与契約を解除することができるようにすることができる。
相続人の争続対策
相続は遺言があればその通りに実行されるが、遺言がないときは原則:法定相続によって分割される。しかし相続財産が金銭のように分割しやすいものであればよいが、不動産などで分割しにくい場合などでは遺産分割協議により実際の相続分が決定されていく。
承認と放棄
まず相続人が相続財産を承継するかを決定することができる。
相続の放棄 |
はじめから相続人ではないとみなされ、相続財産の一切の権利・義務を承継しない |
単純承認 |
相続財産の権利・義務を全て承継する |
限定承認 |
相続財産の権利の範囲内で義務を承継する |
⇒限定承認は相続人全員で行わなければならない・裁判所への手続きが煩雑・税が相続税ではなく譲渡税でかかるなどの問題によりほとんど行われていない。
遺言の破棄と遺産分割協議
遺言がないときは、相続の放棄をした者以外で遺産分割協議が開始される。また相続人全員の合意により遺言を破棄して遺産分割をすることも可能である。遺産分割協議は全員の合意により終結するまで続けられ期限は特にない(遺産分割協議中の相続は財産は相続人の共有とされる)が、相続税の申告期限の10カ月以内に終わらせるのが普通である。
寄与分
実際に公平に分割しようとしても、被相続人とその子の関係では扶養や贈与が行われており、単純に相続発生時の財産を分割すればよいのではない、そのため被相続人の財産の増加をした者には寄与分が、婚姻のときや生活費などにより財産を贈与された者には特別受益が認められより公平に分割することができる。
寄与分 |
被相続人の財産の増加を行った相続人 ⇒土地をより高く売れるようにした、介護をして財産の流失を防いだなど ⇒財産の増加分は相続財産から除外され相続人の固有の相続分となる。 |
特別受益 |
婚姻のときや生活費などにより財産を贈与された者 ⇒財産の減少分は相続財産に加算され、法定割後にその相続人の相続財産から除外される。 |
遺留分による生活保障
遺言があれば遺言の通りに遺産分割は実行されるが、例えば愛人に全財産を遺贈すると残された配偶者や子は財産を失い生活費が払えなくなったり住居を失ったりする。そのため最低限の生活保障として遺留分が認められている。
⇒長男に全額相続させるとしたときに二男や長女から遺留分減殺請求されていることもできる。
遺留分の額
遺言は被相続人の最後の意思であるため、これを無効にすることは良くない。そのため相続財産のうち1/2は確実に遺言の通り実行される。また残りの1/2は法定相続通りに分割され、各相続人が遺留分減殺請求をするか選択ができる。
⇒遺留分減殺請求をしない者がいたとしても他の相続人の遺留分には影響しない。
⇒遺留分の放棄は被相続人の生前にできるため、遺言を確実に実行したいときは遺留分の放棄をさせておくことが大事である。なお遺留分の放棄はその放棄する相続人が家庭裁判所に申述する
相続・事業承継② 相続税・贈与税
相続税の考え方
庶民には関係ない相続税
相続は単なる被相続人の財産の分割だけでなく、被相続人の死後の相続人の生活に充てられる部分もあります。このような生活費として消費される部分に税を掛けてしまうのは良くないですので、相続税には非課税や控除・特例などにより減免措置が講じられています。相続税を納めるのは相続が発生する人の5%程度にしかすぎません。
⇒相続税の増税が決定しましたので、これから先は増加するでしょう。
金持ちには多額の納税義務
逆に財産をたくさん持つ者は多額の相続税を納めます。相続税の対策を3代しないと家は潰れるなんて言ったりします。これは相続税の税率が昔は75%と高かったことやこれを回避するために相続人に分割を行うと個々が消費してしまうため、相続財産が最終的になくなったことに言われるようになりました。
現在の相続税は50%(増税後は55%)ですので、少し引き下げられていますが、それでも高いことには変わりません。
相続税と贈与税の関係
相続と贈与は密接な関係があり、同じような考え方のもと作られています。これは相続税の回避をするために生前に贈与を行われるからです。また贈与は相続のように1回きりでいつ起こるか分からないものではなく、計画的に何度も行うことができ、簡単に税金逃れが行われることも理由の一つです。
そこで贈与税には相続税と同じような考え方で作られるとともに、相続税よりも高い税が発生するようにされています。
相続税・贈与税の大まかな計算方法
①課税財産と非課税財産に分けられ、非課税財産には税はかかりません。
②債務控除が行われ、借金などがあった場合は、それらは控除されいわゆる純資産の部分しか課税されません。
⇒逆に明らかに脱税行為と認定される場合は、それらは課税財産に加えられます。
③基礎控除により、さらに課税財産は少なくなります。
④基礎控除が終わると税率が課されますが、税率は累進課税され課税財産が多くなるにつれて税率も上がります。
⇒相続の場合は相続の放棄はなかったものとみなされ、法定相続で相続したものとして相続人ごとに相続税は計算され、それらの税額は足しあわされた後、実際にもらった額により税額を分割します。
⇒贈与税は受贈者ごとに贈与税の税額が計算されます。
⑤相続税はさらに個別の事情ごとに税額控除されます。また本来もらえない相続人には2割加算されます。
課税財産
相続税 |
相続時に被相続人が持っていた財産 |
贈与税 |
受贈者が暦年の間に贈与された財産 |
非課税財産(相続税のみ)
生前に取得した墓地,墓石,仏壇,仏具
⇒生命保険金や死亡退職金、弔慰金は相続人の死後の生活費となるため非課税枠が設けられている。
生命保険金 |
500万円×法定相続人の数 |
死亡退職金 |
500万円×法定相続人の数 |
弔慰金 |
業務外の死亡:弔慰金は6ヶ月分までが非課税 業務上の死亡:弔慰金は36ヶ月分までが非課税 |
課税財産に加算されるもの
相続税 |
相続開始の年において被相続人から贈与により取得した財産 相続の開始前3年以内にその相続に係る被相続人から贈与された財産 |
贈与税 |
低額贈与や債務免除など |
債務控除
被相続人の銀行からの借入金,所得税の未納分,埋葬・火葬・納骨などの費用
相続税評価
不動産や株式などのように値段が不確定のものは個別に評価が行われる。
土地 |
原則、路線価方式 |
建物 |
固定資産税評価額? |
上場株式 |
死亡日・死亡日の属する月・その前月・その前々月の終値の平均額の最も安い価格 |
非上場株式 |
同族株主は純資産価額方式,類似業種比準方式(もしくは併用方式) 同族株主以外の株主等は、配当還元方式 |
使いにくいものは価値が下がる
権利などが付着している土地のように使いにくいものは、それだけ市場価値の評価も下がるため相続税評価額も下がる。
借地権と貸宅地
貸宅地:借地権の目的となっている土地
貸宅地の評価 |
自用地としての価額×(1-借地権割合) |
借地権の評価 |
自用地としての価額×借地権割合 |
貸家と貸家建付地
貸家建付地:自己の所有する土地の上にその人自身が所有する建物があり,その建物を他に貸し付けている土地
貸家建付地の評価 |
自用地としての価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
貸家の評価 |
自用家屋としての評価額×(1-借家権割合×賃貸割合) |
小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例(相続のみ)
居住用宅地や事業宅地は、被相続人の死後も相続人の生活を支える部分であるため、税の発生を抑える必要があるため特例が用意されている。
⇒定められた割合により,課税価格に算入すべき価額を減額する
特定居住用宅地 |
限度面積240㎡、減額率80% |
特定事業用宅地 |
限度面積400㎡、減額率80% |
貸付事業用宅地 |
限度面積200㎡、減額率50% |
平成27年1月1日より相続税が増税されることによる改正
・特定居住用宅地の限度面積が330㎡になる
・特定居住用宅地と特定事業用宅地を併用するときは完全併用になる。
⇒どちらも使えるため330㎡+400㎡の最大730㎡に減額率80%が適用できる。
・二世帯住宅は、内部で行き来ができるか否かにかかわらず、同居しているものとされる
・老人ホームに入所したことにより被相続人が居住しなくなった家屋の敷地は、特定の要件の下で、相続の開始の直前において被相続人が居住していたものとして、特例の適用ができる
基礎控除額
相続税 |
5000万円+1000万円×法定相続人の数。 ⇒平成27年1月1日以後 3000万円+600万円×法定相続人の数 |
贈与税 |
暦年課税の場合は、110万円 |
法定相続人の数に含めることのできる養子の数
養子をたくさん作ることにより相続税の脱税を起こされる可能性があるため、相続税においては法定相続人に算入できる数を制限している(民法においては制限なし)。
被相続人に実子がいる場合 |
養子1人まで |
被相続人に実子がいない場合 |
養子2人まで |
税額軽減
配偶者に対する軽減
配偶者は財産を作り出すことを一緒に行ってきたものであり、相続税は世代間の交代時に発生するという考え方もあるため、配偶者には税額の軽減が行われている。
相続税 |
相続等により取得した財産の価額が,配偶者の法定相続分相当額と1億6,000万円のいずれか多い金額以内であれば,配偶者の納付すべき相続税額はゼロとなる。 |
贈与税 |
居住用財産の贈与で有れば基礎控除とは別に2000万円まで控除される。 |
社会的弱者への税額控除(相続のみ)
未成年者や障害者などの社会的弱者には税額控除が用意されている。
2割加算(相続のみ)
兄弟姉妹(法定相続であったとしても)や相続人でない者が相続財産を受け取るとき、それらの者は極めて偶発性が高く別家計を営んでいるため相続財産が生活費として消費される可能性は低いため、通常通り相続税の計算で求められた値にさらに20%加算して納税させる。
⇒被相続人の父母や代襲相続人である被相続人の孫は2割加算の対象ではない
相続・事業承継③ 相続税対策
相続財産ごとに見る相続財対策の必要性・方法
ここでは相続財産を1億円まで・1~2億円・それ以上にわけ、簡易的な相続税額計算により相続税対策は必要かとその方法にはどんなものがあるかを見ていく。なお相続税の法律適用は平成27年改正後の場合で計算してある。
相続財産1億円程度までの相続対策
債務控除
住宅ローンなどは団信によって完済されるため債務控除にはあたらないが、その他にローンなどがあれば債務控除の対象となる。
不動産
土地は小規模宅地の特例があるため330㎡までの部分の評価額は80%減される。
⇒面積が330㎡を超えるときは、330/総面積×評価額×0.8をすれば減額される値が求められる。
建物には特例は存在しないが、減価償却されるため現役世代に建てた住宅で有れば老後にはほとんど価値を有していない。
購入価額×0.7×経過年数/(戸建なら50年、マンションなら75年)
生命保険の非課税枠
500万円×法定相続人の数が非課税とされるため、それらを除外した値が課税財産
基礎控除
3000万円+600万円×法定相続人の数が控除される。
簡易チェックシート
相続財産 |
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債務控除 |
あればあるだけ |
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土地 |
購入価額×0.8×0.8又は相続税路線価 |
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建物 |
購入価額×0.7×経過年数/(50 or 75) |
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生命保険の基礎控除 |
500万円×法定相続人の数 |
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基礎控除 |
3000万円+600万円×法定相続人の数 |
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合計 |
合計が0なら相続対策は不要! |
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居住用不動産、生命保険を持っていないとき
不動産の購入や生命保険の加入を検討してみると良い。
⇒そもそも不動産の相続税評価は、土地で有れば公示価格の80%程度・建物であれば公示価格の70%程度になるように低く見積もられている。また小規模宅地なども利用できるようになるため低減効果は高い。
⇒また生命保険は、500万円×法定相続人の数以下の一時払い終身保険に入ることにより、生きている間は運用して必要になったら解約し解約返戻金をもらうこともでき、必要なかったときはそのまま相続税に加算されれば非課税枠により相続税が低減される。
相続財産が1~2億円程度までの相続対策
相続財産が1億円を超えると税金を払わないようにするのは難しくなる。しかし専門家に頼むと相続税が安くなったとしても専門家に払う費用がかかるため費用対効果は低い。1~2億円程度までの相続であれば費用対効果を考えながら相続税対策の必要がある。
孫を養子縁組する
養子縁組はすると法定相続人が1人増えるため基礎控除や生命保険の非課税枠が増加ずる。孫が未成年者であれば未成年者にかかる税額控除も使える。また子を飛ばして孫に相続財産が渡せるため子の死亡時の相続税対策にもなる。
⇒他の相続人との不公平感が出ないように注意する必要がある。
相続が2回発生することを視野に入れる
相続は夫が死亡したときと妻が死亡したときの2回相続が発生する。そのためどちらか一方に財産が集中しているときは、その財産を分割してあげれば相続税は低くなる。生前贈与は後述の暦年課税に対する方法のほかに配偶者への居住用財産の贈与の特例がある。
また配偶者に対する相続税額の軽減により、法定相続か1億6000万円の相続財産までなら相続税はかからない。そのためいきなり全額を子に渡すのではなく、一旦配偶者にプールさせておき配偶者の死亡で全ての相続が完了するようにすれば相続税が低減される。
⇒消費することのできる金銭を配偶者に渡し、不動産などの固定資産を子に渡している方が良いが、不動産を渡すときは小規模宅地の特例は、子の適用には一緒に住んでいることなどの要件があるため注意すること。
暦年贈与を使う
生前贈与を行えば基礎控除110万円があるため、1年間に110万円までなら税が発生せずに贈与が可能である。3人の子供に10年続ければ3300万円分、税が発生しない。
⇒定期給付契約を結ぶと多額の税が発生するので注意。また勝手に子の通帳を作っての贈与は、贈与にみなされないため必ず子に渡すこと。
⇒200~300万円くらいを贈与し、贈与税をわざと発生させ税務署に証拠を残しておくとよい。
相続時課税清算制度を使う
相続時課税清算制度は2500万円まで非課税で贈与でき、2500万円を超えた部分は20%の税が発生する。また相続が発生すると贈与財産は相続財産に加算され、納付した贈与税は控除又は還付される。このように相続時課税清算制度自体では相続税の低減効果はない。
⇒贈与財産は贈与時の価額で評価されるため値上がりが期待できる株式などを贈与すると値上がり分が得になる。また贈与のタイミングを見て評価の安いときに贈与すると効果が高い。
⇒運用益が発生するものはその間の利益を相続税に加算せずに済む。
小規模宅地の特例をフル活用する
小規模宅地の特例は評価額が同じでも、㎡あたりの単価の低い土地をたくさん持つより㎡あたりの単価の高い土地を330㎡まで持つ方が、低減効果が高い。
そのため買換え特例などを使い都市部の土地で2世帯住宅(改正後から適用可能になる)を建築すると小規模宅地の特例や新築建物は固定資産税評価により金銭で持つより安くなり、さらに子に住宅を相続させることができる。
⇒なお広い土地は広大地補正などがあるためそちらも一緒に考える必要がある。
相続財産が2億円を超えるとき
ここまでくると自分だけで対策を行うことは不可能であるので、専門家にやってもらうとよい。
契約書作成や代理人としては弁護士、税金対策は税理士、不動産評価は不動産鑑定士、保険は保険募集人、その他取り次ぎ役としてFPなどがチームとして行動していく必要があるだろう。
非上場企業経営者の相続対策
非上場企業の経営者に対して相続が発生するときは自社株に対しての問題が出てくる。
後継者を特定の者にしたいが、自社株が後継者以外の者に渡り経営が不安定になる可能性がある。
財産のほとんどが株式であり、相続税を納めるのが困難
非上場株の評価は純資産価額と類似業種比準価額で行われるが、純資産価額の評価は通常の株式よりも高く多額の相続税が発生する。
生前贈与
生前贈与をして後継者にあらかじめ株式を渡す。
株式の評価低減
生前贈与を行うまえに特別配当を行ったり経営者が勇退して退職金を交付させたりすることにより、株式の評価を下げ贈与を実行する。
生前贈与の特例
社長が経営者を退き後継者に経営権を譲ることを条件に贈与税の80%を繰り延べできる。
遺留分の放棄
遺言をしっかり残し、後継者以外には遺留分の放棄をさせることにより後継者に確実に相続させることができる。またどうしても揉めたときには株式の額を遺留分から除外させる「」と株式の値上り益を遺留分から除外する「」がある。
金庫株の活用
会社が金庫株を持つ要件が緩和され持ちやすくなったため、相続された上場株式を会社が買い取ることもできるようになった。これにより相続人には相続税を払うための金銭を渡し、時期が来れば後継者が会社から金庫株を買い取ることができる。
会社を上場する
会社を上場すると株式の評価は上場株式の評価へと変わり、株式自体にも流動性ができるため相続税対策として有効である。また非上場会社の評価区分を上げる(中会社から大会社に上げるなど)と類似業種評価基準額での評価割合が増加するため、株式の評価額を下げることもできる。
生命保険に加入する
生命保険の加入は非課税枠を使えたり後継者の代償分割の資金にしたりすることが可能である。また相続税の税率が50%程度になる場合は、生命保険の契約者及び保険金受取人を後継者とすることにより所得税の一時所得として税が発生するため、そちらを活用するとよい。
1億円の平準定期に加入したとき
相続税
1億円×50%=5000万円 ∴5000万円の納税
所得税・住民税
1億円×1/2(総合課税されるときに)=5000万円
5000万円×(40%+10%)=2500万円 ∴2500万円の納税